平成18年3月1日 マイスター通信 第12号
12
地域特産物マイスターの皆様への期待

(財)日本特産農産物協会理事長 小高良彦

  私、昨年11月に西尾理事長に代わりまして、(財)日本特産農産物協会理事長に就任いたしました。平成13年1月に農林水産省を大臣官房技術総括審議官を最後に退職し、農林漁業金融公庫理事を経て就任いたしました。どうぞよろしくお願い申し上げます。
 地域特産物マイスター制度につきましては、農林公庫在職中から時宜を得た制度だと注目しておりましたので、これを推し進める立場になり光栄に思っております。
 我が国の社会経済情勢をみますと、「高度経済成長」から「安定成長時代」へ、「中央集権時代から地方(分権)の時代へ」、「大量生産」から「少量多品目生産時代」へ、「量」から「質」の時代へ、と大きく変化してきており、また、国民の考え方も、花より団子の「物」の時代から「心」を重視する時代へと移り変わり現代社会は、「環境」や「資源」を重視した「健康」、「安全・安心」、「本物」、「自然」志向になってきております。
 一方、農業・農政面におきましては、自給率の低下、農村の過疎化・混住化、担い手の不足・兼業化・高齢化、輸入農産物の増大等による農産物価格の低迷等により、農業・農村の活力は低下し、WTOの行方によっては、これにさらに拍車がかかることが危惧されております。このため、「食料・農業・農村基本法」・「同基本計画」、「経営所得安定対策等大綱」等において、19年産からは、全農家を対象とした「価格対策」から認定農業者等一部の担い手を対象とした、「経営所得安定対策」へと農政も大きく舵を切られることになり、特色のある・個性のある経営(体)の育成・確保が急がれております。
 また、新しい基本計画においては、自給率向上の重要な手段として、「地産地消」が掲げられており、当協会といたしましても積極的にこの運動に参加しているところです。
 地域特産物マイスターの皆様が今までやってこられたこと、やっていこうとされていることは、地域の風土に根ざし、地域特産物を作り上げ、これを農業経営や農村振興に取り入れ、地産地消や食育にも貢献しつつ、特色ある農業経営・活力のある農村社会の形成に役立つものであり、我が国の農業に正に今求められているものではないかと思っております。地域特産物マイスターの皆様の一層のご活躍をご期待申し上げます。

 発行 地域特産物マイスター協議会・財団法人 日本特産農産物協会
 〒107-0052 東京都港区赤坂1−9−13   TEL:03-3584-6845   FAX:03-3584-1757
 URL http://www.jsapa.or.jp 
○平成17年度地域特産物マイスターを認定しました
 本年度の地域特産物マイスターは、別添のとおり18名の方が認定されました。認定者数は、6年目を迎え117名になりました。
  協会ホームページでは、カラー写真入りで地域特産物マイスターの技術内容や活動状況等を載せ、マイスターの方々を紹介しております。本年度のマイスターの方々も分野が多岐にわたっており、ハマボウフウ、楓の樹液、もち麦などが加わっています。
 今後地域特産物マイスターとして、特産地発展のためになお一層活躍されることが期待されております。

○「第5回地域特産物マイスターの集い」を2月27日に開催しました。
 地域特産物マイスター認定証の交付とマイスターの相互交流を図るための「第5回地域特産物マイスターの集い」が、2月27日(月)13:30〜15:50、前年と同じ東京都港区赤坂 三会堂ビル石垣記念ホールにおいて開催されマイスター、関係者100名余が参加され盛大に行われました。この中で、平成17年度認定者の方に当協会小高理事長から、認定証が交付されました。今後のご活躍が期待されるなかで、代表して山形県の栗田和則さんから決意が延べられました。
 マイスターの認定者は117名に達し、関係の方々も含め相互の交流が図られ、有意義な集いになりました。
 第5回地域特産物マイスターの集いのプログラムは、次のとおりです。
開 会
挨 拶
     主催者挨拶  (財)日本特産農産物協会理事長   小高良彦
     来賓挨拶    農林水産省大臣官房審議官      吉田岳志
地域特産物マイスター認定証の交付
地域特産物マイスター代表挨拶
講 演
  テーマ:「元氣のあるところに未来が見える・これからの農業を語る」
  講 師:工藤 順一氏 山形県寒河江市 観光カリスマ工藤事務所 代表

 (工藤順一氏のプロフィル)山形市生まれ。長年JAさがえ西村山(元寒河江市農協)に勤務し、昭和55年にさくらんぼのオーナー制を全国に売り出したことを皮切りに、59年には寒河江市周年観光農業推進会議を行政、農協、生産者一体となって設立。一躍「寒河江」の名を全国へ知らしめた。その功績が認められ、15年1月には内閣府、国土交通省、農林水産省「カリスマ観光」百選選定委員会の「観光農業」のカリスマに選定された。
 同年4月より「観光カリスマ工藤事務所」設立。観光とまちづくりなどの活動を全国的に展開し活躍している。
 閉 会

○平成17年地域特産物の持つ機能性等に関する研究会
   「特産農作物セミナー」が開催されました。
 当協会では「平成17年度特産農作物セミナー」を、去る1月25日に東京・虎ノ門パストラルで開催し、80名余の参加者を得て盛会裡に終了しました。
 本セミナーは平成13年度から「健康機能性」と「景観形成」を主テーマに開催してきたもので、本年度は、アマランサスとゆずを対象にとりあげました。
 そのプログラムは、次のとおりです。
 ▼ 日 時:平成18年1月25日(水)13:00〜17:00
 ▼ 場 所:東京都港区虎ノ門4−1−1  虎ノ門パストラル本館8階しらかばの間
1.開 会
2.挨 拶   (財)日本特産農産物協会理事長   小高 良彦
3.議 事
  座 長      農林漁業金融公庫 技術参与  平岩  進 氏
 T アマランサスの研究と健康機能性
     (独)作物研究所 資源作物育種研究室長  勝田 真澄 氏
 U アマランサスの栽培と製品の販売戦略
    岩手県軽米町 尾田川農園代表         尾田川 勝雄 氏
 V ゆずを中心とした柑橘の健康機能性
   高知大学農学部教授                 沢村 正義 氏    
 W ゆずの生産振興と製品の販売戦略
   高知県安芸郡馬路村農業協同組合
       代表理事専務                 東谷 望史 氏
 X 総括討議
4.閉 会

○地域特産物マイスターの活動支援
 当協会では、マイスターが研修会などの講師に招かれ、技術の普及、産地の育成等の指導を行うに際し、その経費の一部を負担するなどマイスターの活動の支援を行っています。
 平成17年に当協会が活動支援を行ったマイスターと研修会等は以下のとおりです。
 この制度の利用は一部の方に偏る傾向が見られますが、できるだけ広く公平に支援していきたいと考えておりますので、マイスターの活動の趣旨に沿って、講師などを務められる企画がありましたら、当協会まで連絡し、マイスターの派遣制度を活用していただきたいと存じます。

@平成17年1月20日    高橋 良孝   ジャパン ハーブ ソサエティー講演会
                          (NPO・ジャパン ハーブ ソサエティー)
A平成17年1月27日     小池 芳子   地域農産物活用研修会
                          (埼玉県農林部農山村魅力づくり室 外)
B平成17年2月4日       針塚 籐重   黒豆の味噌作り講習会
                          (兵庫県 西宮市お米の勉強会)
C平成17年2月24日     小池 芳子   利根沼田農業委員研修会
                          (群馬県利根沼田農業委員会協議会)
D平成17年3月17日     小久保武男   越生柚子部会せん定技術講習会
                          (JAいるま野、川越農林振興センター)
E平成17年4月4日       山縣 繁一   自然薯種芋の芽だし作業と定植の現地講習会
                          (自然薯・(宮城県)みやぎ仙南農業協同組合)
F平成17年5月10日     武井 正征   山梨県栄養士会韮崎支部研修会
                          (ハーブ・山梨県栄養士会韮崎支部)
G平成17年6月6日       山縣 繁一   自然薯栽培現地研修会
                          (自然薯・青森県深浦白神自然薯研究会)
H平成17年6月13日     針塚 籐重   岡山県食品新技術応用研究会
                          (農産加工・岡山県食品新技術応用研究会)
I平成17年7月3日      脇  博義    お茶摘み体験 in 富郷
                          (手揉み茶・愛媛県 JAうま富郷出張所茶業部)
J平成17年7月15日     森口 昌英   熟年者農業実践講座現地研修会
                          (丹波栗・兵庫県篠山農業改良普及センター)
K平成17年7月31日     武井 正征   園芸講座ガーデニング実習コース
                          (ハーブ・山梨県フラワーセンター)
L平成17年8月4日      小池 芳子   農産加工起業者のための商品開発力強化
                          (農産加工・愛知県立農業大学校)
M平成17年8月29日     山縣 繁一   自然薯栽培現地検討会
                          (自然薯・宮城県自然薯生産者協議会準備会)
N平成17年9月11日     針塚 籐重   渋川市民文化祭総合開会式文化講演
                          「発酵食品と健康」
                          (農産加工・群馬県渋川市文化協会)
O平成17年9月25日     高橋 良孝   NPO・ジャパン ハーブ ソサエティー
                          仙台地区大会(ハーブ・NPO・ジャパン
                                    ハーブソサエティー仙台支部)
P平成17年10月7日     武井 正征   ハーブ講演会(ハーブ・NPO・ジャパン
                                    ハーブソサエティー札幌支部)
Q平成17年10月20日     阿部  誠   NPO・ジャパン ハーブソサエティー講演会
                           (開催地東京都)
R平成17年10月31日   小池 彼男   手もみ茶体験学習(白川北小学校)
   平成17年11月9日     小池 彼男   手もみ茶体験学習(黒川北小学校)
                  (手もみ茶・岐阜県白川町・白川町茶業振興会、白川茶手もみ保存会)
S平成17年11月28日     関  京子   「ゆず加工講習会」
                           (JAハンナン女性部朝市・加工連合会)

○全国地産地消推進フォーラム2006が開催されました
 全国地産地消推進フォーラム2006が平成18年2月28日(火)農林水産省7階講堂で600名余の参加者を集め、盛大に開催されました。
 地域で生産されたものを地域で消費する「地産地消」は、農林水産省の新しい施策として新たな食料・農業・農村基本計画においても「攻めの農政」の一つに位置づけられて、食料自給率の向上に向け全国展開が図られており、当協会もその一役を担っています。
 当協会は、平成17年度から地産地消推進活動支援事業を展開しており、その一環として地産地消優良活動者を表彰するための審査会である地産地消推進活動支援委員会(表彰審査会委員長:小泉浩郎氏)の事務局になっております。
 審査会の結果、次の優良活動者については、この全国地産地消推進フォーラム2006に併せて行われた表彰式において、農林水産大臣賞、農林水産省関係局長賞が授与されました。

 農林水産大臣賞         秋田県「JA秋田やまもと食農実践会議」
 農林水産大臣賞         広島県「世羅高原6次産業ネットワーク」
 農林水産省総合食料局長賞  福井県「旬菜.comねっと」 
 農林水産省経営局長賞     北海道「やぶ田ファーム」 
 農林水産省経営局長賞     佐賀県「鳴神の庄出荷組合」 
 農林水産省農村振興局長賞  山形県「(株)ホテルキャッスル」
 農林水産省生産局長賞     栃木県「久名瀬農産物販売組合」
 農林水産省生産局長賞     奈良県「手づくりハムのばあく」
 農林水産省生産局長賞     島根県「NPO法人まめだがネット」
 農林水産省生産局長賞     沖縄県「ファーマーズマーケットいとまん・うまんちゅう市場」

 全国地産地消推進フォーラム2006では、地産地消を「科学」という切り口から評価し今後の振興方法を検討するため、各界の専門家の参集を得て開催されました。
 このプログラムは、次のとおりです。
 【テーマ】地産地消を科学する
 【提 唱】農林水産省
 【主 催】全国地産地消推進フォーラム実行協議会(会長:小泉武夫東京農業大学教授)
   基調講演       小泉武夫(東京農業大学教授・食文化論)
   記念講演       松井孝典(東京大学教授・地球物理学)
   パネルディスカッション 
     パネリスト:秋岡榮子(経済エッセイスト)、合瀬宏毅(NHK解説委員)
            松井孝典(東京大学教授)、吉田企世子(女子栄養大学名誉教授)
            若林敬二(国立がんセンター研究所副所長)
     コーディネーター:小泉浩郎(山崎農業研究所事務局長)

                   
千 原 信 彦  地域特産物マイスター審査委員
                     (元日本農業新聞論説委員)

ユズ復興にありったけの情熱
様々な技術を実証し紹介

小久保武男さん=埼玉県飯能市

旧家の串田家で實さん(右)と回顧談が弾む
 冬の鍋物に欠かせないユズ。埼玉県の越生、毛呂山地区は内陸部に属するが、珍しく温暖な地域がスポット的にあり、常緑果樹であるユズが育つ。ここで栽培指導に普及員生活の大半を費やしたのが小久保武男さん(75)だ。
 狭山茶の茶所、入間市を秩父方面に向かうと低い山並みが続くようになる。関東では梅産地として名を挙げている越生梅林があり、 それを少し上ると、標高700bあたりにユズが出現する。それより下ではユズが育たないところで、日当たりがよい傾斜地であるため冷気がたまらない、いわゆる気温の逆転現象が起きる地域。その地形と気象条件が埼玉県内にユニークなユズ産地を作り出した。年間の無霜期間は300日もあるという。
 小久保さんは県内で唯一の常緑果樹の技術者で、普及員を退職した今も、ユズの展示ほを管理し、栽培指導に駆け回る毎日だ。
 小久保さんが調べた記録によると、越生、毛呂山のユズは、昭和5年頃、毛呂山町の素封家である故串田市太郎さんが不況に陥った桑をやめ、ユズを植えたのが最初。珍しがられて1本の木から米1俵分を稼いだという。同18年、食糧増産のために抜根令が出て、ユズを切り倒すかどうか迫られたが、串田さん一家は親類の支援もあり、伐採を免れた。本格的に増殖は戦後のこと。23年ころから東京・神田市場ではリンゴ箱1杯が1万円という高値で取り引きされたほどで、このとき青田買いされたユズは同200円で、買った農家は大もうけしたという記録も残る。
 池田内閣の時代に串田さんは8けたの農業収入を実現した。この好況は50年代まで続く。
 明治8年の「武蔵国郡村記」には毛呂山、越生地域にだけ柑橘類や梅が栽培されていたとされ、徳川末期から明治初期には生活の糧になっていたと小久保さんは推察する。
 ユズはトゲがあり、収穫などの作業には負傷しやすく手間がかかる。だから女性は敬遠する果樹だ。その上、ユズの結果樹齢は昔から13年といわれるほど実がなるまで長い。長年、実生で自家増殖してきただけに、ウイルス病(ステムピッティング)がひどくなってきた。これで今は高知や徳島産に圧倒されている。
 小久保さんはこのウイルス病対策に取り組み、弱毒系のユズ探しを始め、「これなら良いかな」というものを増殖してきている。弱毒系を増やして、穂木を高接ぎするもので、この接ぎ木更新も小久保さんの指導による成果だ。
  また、自然栽培だと樹高はどんどん高くなるが、はしごや脚立を使って収穫していたのでは、1個取るのに10秒から12秒かかる。これを地上から直接取れる低樹高化にも取り組んだ。主枝切り戻しのカットバック手法だ。これだと1個7秒で切れる。
  このほか、温州みかんで実用化しているボックス栽培も実験しており、これだと新植後3年で収穫できる。主枝が直立しがちなユズを、下に引き下げる誘引で花芽をつける隔年結果防止法も成果を挙げている。
  さらに施肥を一回ですまそうと、小久保さんが「老人肥料」と呼ぶ緩効性肥料の施用も広まってきた。

展示ほで誘引したユズの状態
を観察する小久保さん

  これらの技術は、温州みかんですでに成果を挙げているものばかりだが、他産地に押されている同地方ではなかなか普及しない。良いと分かっていても積極的に取り組む人が少ないのだ。そこで小久保さんは「ユズ・梅農業塾」を主催、2年ずつこの講座を開いて最新の技術を披露した。今はこのOB組織で水田を借り、技術実証のための普及所で言う展示ほの管理をし、訪れる人に丁寧な説明や指導をしている。
 越生、毛呂山地区のユズは、栽培面積約50f。決して大産地ではないが、温暖だという地域の特徴を生かした特産物として名物に数えられる。ただし、地場での加工品が発達せず、「昔はユズ酒を作ろうと醸造したこともあった。しかし、時期が早かったのか売れなかった」と小久保さんは振り返る。
 果皮、果汁とも利用価値の高いユズだが、食生活の中では少量ですむ品目で、需要が一気に広がるものではない。それだけに好不況の波が大きく、経営的には難しい果樹だ。
 それでも、東京中央卸売市場の統計では、昭和35年から53年までは埼玉産のユズが全国トップの入荷量で、総入荷量の5割から6割を占めた。千葉、群馬など関東産では群を抜く生産を誇っていた。ところが、54年以降は高知産が大きく量を伸ばし、55年以降、埼玉産は高知、徳島産に押され続け、平成5年からは入荷量10位以内から姿を消す。
 ただ、串田市太郎さんの子息、實さん(77)=毛呂山町窪ノ入は「私が生まれたころ植わった木がほとんどで、何とか守っていきたい。でも1人では60eの管理がせいぜい」と話す。串田さんの家では11月いっぱい収穫(ずれ込むと翌年の花芽が形成されない)し、貯蔵庫に入れて3〜4月まで出荷する。
  串田家の娘が浅田家に嫁入りする際、ユズの苗木を持参、新植したり親類に配ったりし、この浅田家からさらに成人した娘が、嫁入り先に苗木を持っていくという形で広まってきたこの地方のユズ。小久保さんは、昔の栄光を再びと願って、普及員生活からは引退したが、今も毎日展示ほに足を運ぶ。
<マイスター関連新聞記事>
高級加工品で販路拡大 (清木場真一)
釜炒りの伝統技法守る (山口勇次郎)
遠野に生きるポップの達人 (菊池光哉)

食で支える 地域の介護 (田村照栄)

消費者との懸け橋に (田村三千夫)

手揉み茶 (中森慰)

ふるさとの味 継承 (権野晃)

3年間漬け込み味に自信 (森屋吉雄)

滝上のハッカ全国へ (瀬川晃一)

無添加仕上げあんぽ柿好評 (立花孝全)

県内初 地域特産物マイスター誕生 (宇都宮務)

香川県高松市立屋島西小学校でのお話し (山田琢三)


HOME