平成17年2月1日 マイスター通信 第10号
10
虫 に ま な ぶ  −地域密着型農業の重要性−

(財)日本特産農産物協会理事長 西尾敏彦

 現在、この地球上に棲息していると推定されている生物種の数をご存じでしょうか。学者によって、数にかなり違いがありますが、一説によりますと、およそ1400万種といわれています。動物も植物も微生物も、すべてを含んだ数字ですが、なかでとりわけ数の多いのが、虫の仲間です。昆虫の種数は約800万種、全生物種の6割弱を占めています。これに対し、植物は32万種、私たち人類の属する脊髄動物など5万種に過ぎません。
 ところで、なぜこんなに虫の仲間が多いのでしょうか。ある学者にいわせますと、昆虫は体が小さく、あまり遠くまでの移動には向いていない。そこで彼らは、自分たちが今住んでいる環境を利用して、その生育環境に徹底的に適応する生存戦略を選んだのだということです。地球上の多様な環境が、昆虫を多様に進化させたというわけです。
 ここで話題を、日本農業に移しましょう。ご存じのように、日本農業は世界でも有数の零細経営です。一戸の経営面積は1.6ha、アメリカの197.2ha、EUの18.7haに比べて、問題にならない狭さです。しかも日本列島は縦に長く、気候も地勢も多岐にわたっています。狭い国土に大勢の人間が住もうと思えば、みんなが零細な土地を分け合い、それぞれの環境に適合する多様で個性的な農業を営むことが、最良の戦略だったのです。私たちの祖先は、はからずも昆虫と同じ生存戦略を選び、日本農業を繁栄に導いてきました。
 国際化時代に突入し、日本農業にも規模拡大が求められています。それはそれで重要ですが、どんなに努力しても、アメリカの1/10、EUなみ程度が限界ではないでしょうか。それよりも、日本中のいたるところで、それぞれの地域環境を活かし、それと密着した、たとえ規模は小さくても個性派の農業を育てることが、今は大切ではないでしょうか。
 その土地の気候風土に根ざした作物を、その土地の環境条件を活かして育て、その土地ならではの伝統の風味をもつ農産物に仕上げていく。日本農業に今求められているのは、こうした努力の積み重ねではないでしょうか。地域特産物マイスターのみなさんはこうした活動の推進者といってよいでしょう。最近、テレビや新聞でマイスターのみなさんの活動ぶりが報じられるようにもなり、うれしい限りです。日本列島を地域特産物と元気なマイスターで埋め尽くしましょう。それが日本農業活性化の最高の方策にちがいありません。

発行
財団法人 日本特産農産物協会
〒107-0052; 東京都港区赤坂1−9−13
TEL:03−3584−6845
FAX:03−3584−1757
ホームページアドレス http://www.jsapa.or.jp
○平成16年度地域特産物マイスターを認定しました。
 本年度の地域特産物マイスターは、別添のとおり19名の方が認定されました。認定者数は、昨年度と同数で、5年目を迎え丁度100名になりました。マイスターは37都道府県にまたがっており、まだ10県から推薦が出されていないのが残念です。
 協会ホームページでは、カラー写真入りで地域特産物マイスターの技術内容や活動状況等を載せ、マイスターの方々を紹介しております。本年度のマイスターの方々も分野が多岐にわたっており、新たにギョウジャニンニク、ホップ、くわい、わさびなどが加わっています。
 今後地域特産物マイスターとして、特産地発展のためになお一層活躍されることが期待されております。

○「第4回地域特産物マイスターの集い」を2月21日に開催します。
 地域特産物マイスター認定証の交付とマイスターの相互交流を図るための「第4回地域特産物マイスターの集い」が、 別紙1のとおり2月21日(月)に、前年と同じ東京都港区赤坂 三会堂ビル石垣記念ホールにおいて開催されます。
 マイスターの認定者は100名にも達し、関係の方々も含め相互の交流が図られ、有意義な集いになることを期待しております。
 講演は、当初予定した方の都合により、急遽大分県大山町の緒方英雄氏にお願いすることになりました。緒方英雄氏は大山町役場で広報・企画などで活躍され、定年を目前に退職して、新天地である「豊後・大山ひびきの郷」の総支配人になり、いやしの郷づくりに励んでいる方です。宿泊、レストラン、体験工房などを運営する第三セクター「ひびきの郷」を中心とする都市・農村交流や町おこしのモデル的で、かつ示唆に富むお話しが伺えるものと楽しみにしています。
 マイスターの集い終了後は、マイスターの皆さんによる「地域特産物マイスター協議会」を同会場で総会を兼ねて開催します。17時15分からは関係者にも入っていただき、立食による懇親会を開催し、情報の交換、相互の交流を図ることとしておりますので、できるだけ多くの方々の参加をお願いいたします。
 なお、翌22日(火)には「平成16年度地域特産農業情報交流会議」が、別紙2のとおり開催されます。マイスターの皆さん及び関係の方々も引き続きご出席下さい。

○特産農作物セミナーを開催しました。
 当協会では「平成16年度特産農作物セミナー」を、去る11月30日に東京・虎ノ門パストラルで開催し、会場の定員を超える100名余の参加者を得て盛会裡に終了しました。
 本セミナーは平成13年度から「健康機能性」と「景観形成」を主テーマに開催してきたもので、本年度は、茶とブルーベリーを対象にとりあげています。
 最初に、(独)食品総合研究所の津志田食品機能部長から「茶とブルーベリーの持つ健康機能性」について、総括的に話題提供されました。茶ではカテキン、ブルーベリーではアントシアニンというポリフェノールが抗酸化作用を持ち、健康に良い作用を持っていること、ブルーベリーの眼に良いとする機能性、ギャバ茶の開発などについて紹介されています。
 お茶については、すでに数多くの生理機能が報告されていますが、今回、野菜茶業研究所の山本研究室長からは、抗アレルギー作用を持つ緑茶開発についての最先端の研究が紹介されました。「べにふうき」など特定の品種には、ヒスタミン遊離を抑制する強い抗アレルギー作用があること、その作用がメチル化カテキンによることを明らかにし現在は研究グループにより「べにふうき」の商品化を目指していることが紹介されました。その商品化ができあがれば、花粉症等アレルギー疾患に悩んでいる人々には大変な朗報になるものと思われます。
 鹿児島県茶業試験場佐藤室長からは、抗アレルギー茶として期待される「べにふうき」の商品化のための原材料供給産地としての取り組み状況と導入のメリットや期待について述べられました。商品化が進んだとき、ふくらむ需要に応えられるよう永年作物である茶品種の増殖体制を整えておこうとするものです。
 ブルーベリーについては、日本に導入されたのは53年前の1951年ですが、ここ10年で急速に消費が伸び、全国各地に特産地が形成されてきています。2004年には450ha、生産量はおよそ1,300トンに増えていると推定されています。
 日本ブルーベリー協会玉田副会長からは、ブルーベリーの特徴と栽培・消費状況の紹介とブランド化を目指した品種の選定、栽培技術、品質向上対策などについて解説があり、「より安全で、よりおいしく、より健康によい果実」の生産への取り組みを強調されました。
  (財)ふれあいの里公社の田原モデル農場長からは、水田転作作物として、また村の特産品づくりとして導入したブルーベリーの産地化への取り組み、試行錯誤しながら改善対策を実施し、加工品開発などにより産地として確立してきた経緯について紹介がありました。
 詳しい内容は、後ほど報告書として取りまとめ、配布する予定にしていますが、そのプログラムは、次のとおりです。
     ◇ 平成16年度特産農作物セミナー プログラム ◇
  日 時:平成16年11月30日(火)13:00〜17:00
  場 所:東京都港区虎ノ門4−1−1  虎ノ門パストラル本館8階しらかば
 T 茶とブルーベリーを中心にした特産農作物の持つ健康機能性
    (独)食品総合研究所 食品機能部長        津志田 藤二郎
 U 茶の高機能性品種の開発と新しい用途
  (1) 花粉症に朗報!「べにふうき」緑茶の開発とその効用
    (独)農業・生研機構 野菜茶業研究所
       機能解析部茶機能解析研究室長          山本 万里
  (2) 抗アレルギー茶「べにふうき」の導入と今後の展望
    鹿児島県茶業試験場 加工研究室長            佐藤 昭一
 V ブルーベリーの持つ健康機能性と生産振興
  (1) ブルーベリーの国内生産振興とその利用
    日本ブルーベリー協会 副会長              玉田 孝人
  (2) ブルーベリーによる特産品開発と地域おこし
    −能登半島ふれあいの里柳田村−
    (財)ふれあいの里公社  モデル農場長          田原 義昭

○地域特産物マイスターの活動支援
 当協会では、マイスターが研修会などの講師に招かれ、技術の普及、産地の育成等の指導を行うに際し、その経費の一部を負担するなどマイスターの活動の支援を行っています。平成16年度に当協会が活動支援を行った事例は以下のとおりです。
 この制度の利用は一部の方に偏る傾向が見られますが、できるだけ広く公平に支援していきたいと考えておりますので、マイスターの活動の趣旨に沿って、講師などを務められる企画がありましたら、当協会まで連絡し、マイスターの派遣制度を活用していただきたいと存じます。

 @ 16. 5.13  山縣 繁一  自然薯種芋定植現地講習会(宮城県)
 A 16. 5.23  武井 正征  山梨県フラワーセンター園芸講座(山梨県)
 B 16. 6.27  脇  博義  お茶摘み体験 in 富郷(愛媛県)
 C 16. 7.26  山縣 繁一  自然薯栽培現地検討会(宮城県)
 D 16. 8.27  針塚 籐重  女性農業者支援事業「加工コース」(福島県)
 E 16. 9.19  針塚 籐重  糠漬け作り講習会(兵庫県)
 F 16. 9.27  山縣 繁一  自然薯研究現地講習会(鳥取県)
 G 16.12.1〜2 針塚 籐重  食品加工技術講座(滋賀県)
 H 17. 1.20  高橋 良孝  ジャパンハーブ ソサエティー講演会(東京)
 I 17. 1.27  小池 芳子  地域農産物活用研修会(埼玉県)
 J 17. 2. 4  針塚 籐重  黒豆の味噌作り講習会(兵庫県)
 K 17. 2.24  小池 芳子  利根沼田農業委員会研修会(群馬県)

○全国ハーブサミット神戸大会が5月に開催されます。
 全国ハーブサミット連絡協議会と神戸市が主催する「第14回全国ハーブサミット神戸大会」が、平成17年5月27日(金)〜29日(日)の3日間神戸市で開催されます。
 この全国ハーブサミットは、ハーブによるまちづくりに取り組む自治体及び関係団体が中心になって、平成4年から開催しているもので、日本特産農産物協会では第1回から後援してきています。今回は神戸市が「震災10年神戸からの発信」事業の一環で、市民・行政・企業挙げて開催しようとするもので、盛大な大会になるものと思われます。
 1日目は、布引ハーブ園等ツアー、観光船での船上交流会、2日目は、大会・基調講演(エッセイスト玉村豊男氏)・事例報告等で、3日目は、ハーブ施設見学会になっています。
 参加ご希望の方は、全国ハーブサミット神戸大会事務局(電話078−795−5657)にお問い合わせください。

○NHKテレビが高村英世さんの活動を放映
 12月12日(日)にNHK総合テレビが「たべもの新世紀」(日曜6:15〜)の番組で、「食の挑戦者」として高村英世さん(岩手県二戸市、14年度マイスター)を取り上げ、高村さんの雑穀復活への取り組みや雑穀特にヒエへの思い入れを紹介しました。NHKホームページの一部からその内容を、後ろのページに掲載していますのでご覧下さい。
 また、12月21日(火)朝8時35分から放送のNHK総合テレビ「生活ホットモーニング」でも、雑穀マイスターとして、雑穀栽培に取り組む高村さんが紹介され、雑穀の魅力、雑穀料理等が放映されました。

                   
千原 信彦  地域特産物マイスター審査委員
                     ((株)JA情報サービス 参与)

1.ミネラル、食物繊維の宝庫 =雑穀復権に全力
   −山から都会へ光を届けたい−

高村英世さん(63歳) 岩手県二戸市米沢
 
 アトピー症などアレルギー性の病気にいいといわれ始めたヒエやアワ。その主産地が雑穀王国といわれる岩手県。中でトップクラスの経営を展開しているのが高村英世さんだ。機能性が注目され、にわかに注文が増えてきたが、完全有機にこだわる高村さんだけに「まがい物は出荷しない。有機以外のものだと症状にすぐ現れる」と徹底的に品質にこだわる。
 高村さんが雑穀に取り組むきっかけは、二戸市で始まった「宝探し」だった。1994年(平成6年)、全市民にアンケート
を行い、一方で「楽しく美しい町作り委員会」が組織され、自然、文化、歴史、食生活の4つの研究会をおくことになった。このうち、高村さんは食生活の部会に所属、「雑穀が市民の宝として残っていた」(高村さん)。二戸の郷土食と雑穀をどうするかが大きなテーマになった。
 おばあさん方から聞き取り調査をし、市が募集して集まった20人と郷土食や雑穀の勉強を始めた。講習会では「講師から雑穀は貴重品で高いといわれたが、私はだまされるな、と思っていた」と高村さん。しかし、基本からしっかり学ぼうと、12月まで仲間とみっちり勉強した。また、アレルギーの患者がいっぱいいると聞いて、都会の子ども達に、その体質改善に役立つならば、と高村さんの方針は決まった。
 翌年には15人で「いかこ伊加古・五穀の会」を結成、副会長として活動するとともに本格的な雑穀の栽培に取り組んだ。ちなみに伊加古とは古代、この地方を治めていた豪族の名。おばあさん達が細々とつないできた自家採種の種子を確保、雑穀復興はまずキビ作りからスタートした。キビの中でもタカキビというもち性の品種で、以降、白ヒエ、アワ、アマランサス、ゴマ、エゴマ、それに大豆、小豆と幅を広げてきた。
 現在の栽培規模は、ヒエとアワが40e、キビ45e、アマランサス20e、その他の穀類35e。いずれも有機認証を受けた栽培で、ほかに普通栽培の雑穀それぞれほぼ同程度栽培する。
 今は仲間が10人に減ったが、高村さんの栽培はずば抜けて規模が大きい。メンバーの3分の2が地域の元気なおばあさん。残念ながら過去の記帳実績がないため、有機認証は得られないが、「それでも雑穀王国を担う貴重な存在」と高村さん。
 有機栽培を行う高村さんの畑は、山林に囲まれた傾斜地。木と高い畦畔のため周囲からの農薬飛散の心配はない。
 99年(平成11年)には「北岩手古代雑穀」を設立、この代表を務める。加工にも熱心で、地域のお母さん達が運営する二戸駅前のレストラン「雑穀茶屋つぶっこまんま」(代表=安藤直美さん)では、開発された雑穀ラーメン、雑穀ギョウザなどが好調の売れ行きという。消費者や子ども達との交流にも熱心で、「知事もヒエ打ちをした」と自慢する。「農業というのは健康を司っている。生活習慣病でどうにもならない時代だけに、雑穀の時代が来た。中山間地は不利な条件が多い。でもそれは一方で全部戦える武器だ。自分のふるさとの良さを子どもに教え、誇りうる地域を伝承したい」−−高村さんは力説している。

<写真上:乾燥中のタカキビと高村さん>
<写真下:「つぶっこまんま」で談笑する高村さん(右)ら>


2. 機能性が注目される新野菜産地作りに全力
    −「元気な高田農業」実現にフル回転−

佐藤信一さん(55歳) 岩手県陸前高田市矢作町


 「無農薬で土地を選ばず、労力が少なくて済む」−−ヤーコン生産に打ち込む佐藤信一さん。近所に住む学校の先生が、糖尿病対策としていろんな健康野菜を取り寄せていたが、その先生からやってみないかと勧められたのがきっかけ。佐藤さんとヤーコンの出会いだった。1991年(平成3年)のこと。今では兼業農家の多い陸前高田市内で130人が計3f取り組み、地元JA陸前高田市の農産加工品では有力商品になりつつある。昨年は85dの市内の生産全量をJAが買い付けた。
 ヤーコンは南米アンデス原産で、85年にニュージーランド経由でわが国に紹介された比較的新しい野菜だ。フラクトオリゴ糖が多いなど機能性に注目が集まっているが、佐藤さんが取り組み始めたころは知名度がなく、「売り先に困った」。
 93年に市で農政懇話会が発足、メンバーである佐藤さんはヤーコンの特産地化を提言し、同じころ主婦で構成する農業井戸端会議ではヤーコン料理の試食会や料理コンクールを開催して新メニューの工夫が行われた。こうしてまず地元で認知してもらった。JAも積極的に対応することになった。さらに学校給食センターの栄養士がヤーコンに注目、今では月5回、ヤーコンが登場するようになった。1回4000食分が消費される。
 出荷したヤーコンの7〜8割は生食だが、JA陸前高田市が製造し売っている加工品も、ヤーコンのジュース、アイス、ゼリー、冷麺、茶と豊富になっている。
 ヤーコンの栽培は比較的楽にできる。苗を植えたら除草くらいで、後は収穫。病害虫も少ない。しかし、昨年のように日照りが続くと生育は思わしくなく、「かえって1昨年のような冷害年の方が良く取れた」と佐藤さんはいう。90%が水分だから乾燥が苦手の作物なのだ。
 収穫は霜が1〜2回降りて葉が枯れた後。機械は今のところカンショ掘り取り機を活用しているが、市とJAが掘り取り機を購入、農家にリースしている。佐藤さんは現在1.3fの経営規模で、うち20eのヤーコンを栽培している。1時期は30e栽培していたが、市会議員の方が忙しく手が回らなくなった。ほかに雨よけのトマト、無加温栽培のフリージア、夏秋キュウリなどを栽培している。
 「10e当たり15〜20万円とあまり収入にはならない。ただ植えっぱなしでいいから労働報酬は高い」と佐藤さんは見る。このため、複合経営の中で転作とか遊休地対策にピッタリの作物だといえ、「陸前高田のように平地が少ない、兼業農家の多い地域
に受け入れられやすい」と推奨する。
 全国ヤーコン研究会(会員約200人)の主要メンバーであり、春の研究会、秋の現地研修会に参加する。3年前には全国ヤーコンサミットも開催、250人がヤーコンの論議に熱い討論を繰り広げた。栽培当初は同市に農水省四国農試の中西建夫氏を招き講
演してもらったり、茨城大の月橋輝男教授の指導も受けた。地元では「ヤーコン信ちゃん」の名で通るほど有名人。取材依頼も多い。忙しい中だが「PRになってありがたい」と苦にせず積極的に対応している。
 子ども達への接触にも熱心で、学校農園にヤーコンを栽培、学給に地元産の野菜を、と産直グループや主婦のニンジンクラブとともに地元食材の供給に走り回る。「もう一つ、東北大の故星川先生が作ったアピオスの量産も狙っています。これら新しい野菜と
これまでのものを組み合わせて“元気が目玉の高田農業”をめざしたい」佐藤さんは意欲的に話していた。

<写真上:むしろをかぶせ保管中のヤーコンの種根>
<写真下:水洗いし出荷に備えるヤーコンと佐藤さん>


流尾 哲也  (財)日本特産農産物協会 参与

ムラサキ」を薬草として栽培・普及させたい
    −絶滅危惧種の薬草の人為増殖に生涯を掛けて−

畠山好雄さん(64歳) 北海道空知郡南幌町


 薬用作物・ハーブのマイスター畠山好雄さんは国立の研究機関で長年薬用植物の栽培の指導に当たってきている。北海道名寄市の国立衛生試験所(当時の名称)北海道薬用植物栽培試験場時代には、道内各地の薬草の栽培組合などに技術指導も行ってきた。
 現在は今までの薬草関係の経験を生かして、夕張郡由仁町にある(株)ゆにガーデンに勤務している。同園は面積14haと国内最大級の広大なハーブガーデンで、各種のハーブをはじめとし、バラ園や春は一面に広がるクロッカス畑などもあり、広い芝生のある英国風庭園だ。 
 畠山さんはここでハーブや各種の花壇の植栽計画や栽培技術の指導に当たるほか、「緑の相談室長」として来園者からのハーブや園芸植物の作り方、ハーブの利用方法などについての園芸相談を年間400件ほど引き受け、また4〜10月の間は1日1回希望者からの園内の無料ガイドを丁寧に1.5〜2時間かけて行っている。
 畠山さんは薬用植物栽培試験場の頃にはシャクヤクの個体選抜を行い、薬用植物として根の収量が圧倒的に多く、「ペオニフローリン」という鎮痛作用を持つ薬用成分含量が安定して高いシャクヤク「北宰相」の品種登録を平成8年に行った。また欧米などの寒冷地薬用植物の「クマコケモモ」(熊のブドウという意味の学名を持つツツジ科の小灌木)の栽培に成功し、名寄市文化賞を平成10年に受賞している。現在は野生植物としては絶滅しかかっている薬用植物のムラサキやキキョウを人為的に増殖して自生地に戻すことに情熱を燃やしている。
 ムラサキ(ムラサキ科)という多年草はかつて日本全国どこにでも自生し、万葉の昔から根(「紫根」という)を紫色の染料として用いることで知られているが、このムラサキを薬用作物として作れないかというのが畠山さんの夢だ。ムラサキは根に抗菌、抗炎症作用などのある薬用植物だが、自生地では長く生きているのに畑で栽培すると1〜2年しか育たないとか。しかし外国種のセイヨウムラサキや西洋系と交雑したハイブリッドは栽培するには生育旺盛で好都合だが「日本薬局方」に定められた「基原植物」(薬用として用いる場合に規定された植物)ではないので薬用作物としては認められない。
 畠山さんの南幌町の自宅を訪ねると、防風ネットを張った家庭菜園の一角に、苦労して入手した自生地のムラサキとハイブリッドのムラサキの両方を、交雑しないように気を配りながら栽培し、今後は遺伝子解析を行って両者の遺伝子の塩基配列に差があるかどうかを研究したいとの抱負を語った。
 北海道にかつてはたくさん野生していた薬用植物を探して増殖させたいのだが、勤めの合間を縫ってではとにかく時間が足りないので、近い内には夢の実現に専念できるようにして、ムラサキを栽培化して農家に普及させたいとの人生設計を持っている。
 最後に畠山さんは「ムラサキの栽培を普及に移すときには『地域特産物マイスター』の肩書きを有効に利用させてもらいますよ」と語っていた。

<写真上:ゆにガーデンへの来園者に丁寧に説明する畠山さん>
<写真下:自宅の庭で育成中のムラサキ(写真中央の2列)>

<マイスター関連新聞記事>
食の挑戦者−命をつなぐふるさとの宝− (高村英世)
食彩の王国「蒟蒻」 (高橋一江)
ハーブ栽培 主婦挑戦 (武井正征)
花と緑の生活 冬にお勧め ハーブティー (武井正征)
広島県藺草・藺製品品評会表彰式 (広川宏志)
白下糖作り−伝統的製糖法を今に伝える− (山田琢三)
小麦と野菜で“混作農法” (針塚籐重)
自然薯を町特産品に (山縣繁一)
両陛下綾町民と歓談−思い出のネクタイ、肩掛け (秋山眞和)

 

HOME