平成16年1月30日 マイスター通信 第8号
|
第8号
|
昨年末、熊本県千丁町に、地域特産物マイスターの福嶋安徳さんが会長を務める「千丁町ひのみどり会」を訪ねました。昨年度農林水産祭天皇杯を受賞したからです。受賞理由はイグサ新品種「ひのみどり」を導入し、最高級の畳表「ひのさらさ」を創出したこと。審査委員長石原邦東京農業大学教授に同行しての訪問でした。 千丁町は八代平野の中央にある人口7000人ほどの町。昔からイグサづくりがさかんで、今も主産業になっています。早朝から会員のみなさんにお集まり願い、イグサ談義に花を咲かせました。 今どき農業は、どこも悪戦苦闘の連続です。とくに需要減と安い海外物に挟撃されているイグサ農家はたいへんです。千丁町でも栽培面積は減る一方。そこで奮起したのが、福嶋さんたちこの会の農家でした。 彼らが着目したのが新品種の「ひのみどり」でした。平成6年に熊本県い業研究所が育成した最高品質の品種ですが、極端に栽培がむずかしい。茎が細いので、肌触りのよい高級畳表ができる反面、根が細いためちょっとした土壌の乾湿でも枯れる。枯死株が続出して、当初は栽培を嫌がる農家も出たといいます。 でも彼らは挫けません。「失敗の裏返しが成功」と、不可能といわれたイグサづくりに挑みました。育苗時の周到な水やり、本田の土づくりなど。栽培法を改良し、ついにこの難物品種を乗りこなすまでになったのです。 最高級の原料にはむろん、それに見合う加工技術が伴わなければなりません。製織現場もみせてもらいましたが、まさに手練のわざ。この腕前が海外でまねできない高級畳表ブランド「ひのさらさ」を創りあげたのでしょう。すぐれたリーダーの下、すぐれた技術を創りあげたことが今回の受賞につながったことを実感して、帰途に着きました。 日本中には「千丁町ひのみどり会」のように、土地の特産物を守り、地域農業振興に尽力しているグループが多数あることでしょう。福嶋さんのようにその核となって活躍しているリーダーも多いに違いありません。今年で80人を超す地域特物マイスターが、これからも日本のあちこちで農業活力化の原動力になってくださることを願っております。 ついでながら、福嶋さんからいただいた名刺が、当協会印刷のマイスターの肩書入り名刺であったのは、うれしいことでした。 |
発行
|
財団法人 日本特産農産物協会
〒107-0052; 東京都港区赤坂1−9−13 TEL:03−3584−6845 FAX:03−3584−1757 ホームページアドレス http://www.jsapa.or.jp |
○平成15年度地域特産物マイスターを認定しました。
本年度の地域特産物マイスターは、別添のとおり19名の方が認定されました。11月13日の審査委員会における審査を経て、11月17日付けで申請者・推薦者・都道府県等関係者に通知するとともに、その後新聞公表等を行っています。 協会ホームページにも、別添のとおり写真入りでマイスターの技術内容や活動状況等を載せて、マイスターの方々を紹介しております。今後地域特産物マイスターとして、特産産地発展のためになお一層活躍されることが期待されます。 本年度のマイスターも分野は多岐にわたっており、新たにヤーコン、自然薯、古代米、ギンナンが加わっています。 地域特産物マイスターの認定者は、今回の19名を加え、81名となりました。35都道府県にまたがっていますが、本年度は西日本からの応募が少なかったのが残念です。 すでにご案内しているとおり、2月23日に開催される「第3回地域特産物マイスターの集い」の場で認定証を交付することとしています。 ○「第3回地域特産物マイスターの集い」を開催します。
○特産農作物セミナーを開催しました。
◇ 平成15年度特産農作物セミナー プログラム ◇ 場 所:東京都港区虎ノ門4−1−1 虎ノ門パストラル本館8階けやき T ひまわりによる特産地開発と地域振興 (1) ひまわりの持つ健康機能性とその利用 北海道東海大学 教授 西村弘行 (2) ひまわりの品種開発と新しい用途開発の動向 北海道農業研究センター畑作研究部遺伝資源利用研究室長 本田 裕 (3) ひまわりによる特産品開発と地域おこし 兵庫県南光町 町長 山田兼三 U そばの生産振興と健康機能性 (1) 高機能性成分を含むそば優良品種の育成と国内生産 筑波大学農林学系 助教授 大澤 良 (2) そばの健康機能性成分とその利用 長野県食品工業試験場 食品開発部 主任研究員 大日方 洋 (3) 「蕎麦の里 猪苗代」の実現に向けて (財)猪苗代町振興公社 総務課長 関澤 好春 |
遠雷のような何時か一雨の思いの年金問題もいよいよ身近かなものとなり、お互いの眉を焦がす域に迫ってきております。
|
1.薬草に着目して、まちの特産作物に
片岡 継雄(67歳) 高知県越知町
越知町は、高知市の北西32kmに位置する山村で、昭和61年にミシマサイコを導入して以来、薬草栽培を推進し、薬草の特産地として発展してきている。 その立役者が片岡継雄さん。きっかけは生薬メーカーがミシマサイコを生産できる産地を探しているとの情報を得て、昭和61年からその試験栽培に取り組み、生産拡大に尽力されたことによる。薬草は契約栽培で収入も安定しており、収穫期が12月から3月の農閑期ということもあり、出稼ぎの解消や労力配分面でも利点があった。 ミシマサイコは、9〜10月頃黄色い小花を咲かせ、12月頃から掘り取り乾燥させた根が「柴胡」といわれ、大柴胡湯、小柴胡湯など漢方薬の原料となる。越知町はその主産地で、現在26ha栽培されている。 平成2年に薬草の販売促進等の目的で、片岡さんが中心となり農事組合法人「ヒューマンライフ土佐」を設立し、ミシマサイコの他、トウキ、シャクヤク、ダイダイなどの薬草栽培を導入・拡大していった。片岡さんの努力により薬草栽培が定着し、平成4年には町の耕地面積の半分にあたる200haで生薬が栽培されるようになった。 ミシマサイコについては、平成7年に66haまで面積を増やしたが、契約する生薬会社の生薬販売不振から平成11年には15haまで減少してしまった。 減少する契約面積の中で、組合員にどう割り当てるかが問題であったが、若い組合員には教育加算の考えから子供の人数に比例して栽培面積の割り当てを増やしている。片岡さんの人情味ある人柄が伺われる。その後、生薬会社との契約面積は26haまで回復し、現在さらに生産拡大が要請される状況にある。 片岡さんにこれまでの苦労話を伺おうとしたら、苦労の記憶はないとの答えが返ってきた。最初の生薬生産取り組み時に生産組織設立と脱退など困難な状況はあったようだが、苦労とは思わずそれを克服できたときは楽しみに変わったとのことである。 ヒューマンライフ土佐は、現在組合員(出資者)が230名、うち薬草生産者は160名で、生産の全量を生薬メーカーと契約し、販売している。片岡さんは、今も組合員の先頭に立ち、収穫物の乾燥調整作業は若い者には任せられないと、一手に引き受け頑張っている。 「ヒューマンライフ土佐」とは、「少しは貧しいけれど皆ヒューマンだ」との精神で、「人情味をもってみんなで生きていこう」、「のどかに生きていく集団にしていこう」という気持ちで、命名したという。また、土佐と付けたのは、小さい町にとどまらず、土佐全体まで広がる大きな集団になれるようにとの願望からでもある。 総会資料には、冒頭に「生き甲斐を感じる暮らし」と書かれており、自分達の暮らしを大切に考えていこうとする片岡さんの人生観が出ている。 また、「人の出会いは宝を運ぶ」との標語も併記されており、生薬メーカーの中国での契約地からの研修生を受け入れる事業を行いながら、日中友好・交流を進めている。 14年度はサイコの生薬販売だけでなく、種採りの臨時販売収入も大きく、人の出会いが宝を運んだと喜んでいる。 今年の課題は、荒廃地の活用として山椒の生産を軌道に乗せることで、山椒の研究を先進地を視察しながら進め、山椒の苗作りに懸命である。数年でかなりの収益を見込めるようになるので、本年から順次定植して、10haを目標に取り組もうと意欲を燃やしている。 <写真上:ミシマサイコほ場の片岡さん>
2. 自然の力を利用して、村ぐるみの無農薬茶生産を推進
脇 博義さん(70歳) 愛媛県新宮村
<写真上:製茶に隣接する茶園前の脇さん>
|
<マイスター関連新聞記事>
|