農林水産省「地産地消推進検討会中間取りまとめ」から
   
1. はじめに
    「地産地消」とは、「地元で生産されたものを地元で消費する」という意味で言われています。
  近年、消費者の農産物に対する安全・安心志向の高まりや生産者の販売の多様化の取組が進む中で、消費者と生産者を結び付ける「地産地消」への期待が高まってきています。
  国は、本年3月に地産地消を食料自給率の向上に向け重点的に取り組むべき事項として、「食料・農業・農村基本計画」の中に位置づけて、全国展開等を積極的に推進することとしています。
   
2. 地産地消の意味
(1) 地産地消の位置付け
    地産地消とは、地域で生産されたものをその地域で消費することですが、国の基本計画では、地域で生産されたものを地域で消費するだけでなく、地域で生産された農産物を地域で消費しようとする活動を通じて、農業者と消費者を結び付ける取組であり、これにより、消費者が、生産者と『顔が見え、話ができる』関係で地域の農産物・食品を購入する機会を提供するとともに、地域の農業と関連産業の活性化を図ることと位置付けています。
  産地から消費するまでの距離は、輸送コストや鮮度、地場農産物としてアピールする商品力、子どもが農業や農産物に親近感を感じる教育力、さらには地域内の物質循環といった観点から見て、近ければ近いほど有利です。
  また、消費者と産地の物理的距離の短さは、両者の心理的な距離の短さにもなり、対面コミュニケーション効果もあって、消費者の「地場農産物」への愛着心や安心感が深まります。
  それが地場農産物の消費を拡大し、ひいては地元の農業を応援することになります。さらに高齢者を含めて地元農業者の営農意欲を高めさせ、農地の荒廃や捨て作りを防ぐことにもなります。
  結局、地場農業を活性化させ、日本型食生活や食文化が守られ、食料自給率を高めることになります。
  しかし、生産地で消費する距離が短いということだけではなく、距離に関係なく、コミュニケーションを伴う農産物の行き来を地産地消ととらえることも可能です。また、地産地消は、地域で自発的に盛り上がりをみせてきた活動で、教育や文化の面も含んだ多様な側面を有しており、固定的、画一的なものではなく、柔軟性・多様性をもった地域の創意工夫を活かしたものとなることが必要であります。
  地産地消の主な取組としては、直売所や量販店での地場農産物の販売、学校給食、福祉施設、観光施設、外食・中食、加工関係での地場農産物の利用などが挙げられます。
(2) 地産地消の類型化
    地産地消の活動としては、従来、農産物の直売所が代表的なものと捉えられてきていますが、実際には各地で様々な創意工夫がなされて盛り上がっており、地場農産物の加工、学校給食、外食産業や観光関係での地場農産物の利用など、その活動内容は多彩です。このように、地域によって差がありますが、ここでは多様な活動を理解し、整理するための一助として類型化を試みています。
  地産地消の活動内容を分類するに当たって、@距離の遠近という基準とAコミュニケーションの程度の濃淡程度という基準によって類型化を試みると、一般に距離が近いほどコミュニケーションの程度も濃くなる傾向が見られます。しかしながら、中には無人直売所にみられるように距離が近くてもコミュニケーションが薄いものもあるなど一定ではないのです。
  こうした考え方に基づいて類型化してみると次のようになります。
   
  地産地消の分類(イメージ)
  (注)あくまで一般的な分類であり、実際には個々の活動によって多様です。
   
    また、活動内容、活動主体、活動範囲によっても類型化が可能です。
  活動内容は、販売普及活動と交流活動に区分され、さらに、販売普及活動は、販売物流活動と情報活動に区分されます。
  これらの活動内容は、さらに、活動の主体により、生産者、実需者、消費者、行政に、また、活動の範囲により市町村内、市町村とその周辺地域内、県内、県域を越えた地方ブロックに細分化されます。
   
   
(3) 活動内容ごとの現状
    以上により類型化した地産地消のそれぞれの活動内容について、現状を事例を挙げつつ見ていくと次のとおりです。
@ 直売所
    直売所の運営主体は農協、農協の組合員(女性部、青年部等)、第3セクター、任意団体等様々であり、運営方法も様々です。
  例えば、JAがファーマーズマーケットを開設し、登録農家からの農産物の出荷を受け販売する事例、女性の生産者100名だけで自主的に運営し、地場農産物とともに、加工して付加価値販売している事例、エコファーマーとして大部分の生産物(野菜)をJAの運営する直売所や量販店に出荷するとともに、一部学校給食にも提供している事例、JAが直売所で地場農産物を販売するとともに消費者等への産直方式による販売も実施している事例などが見られます。
A 量販店等
    量販店等における地産地消の活動として、インショップや販売コーナーを設置しての地場農産物の販売が行われている。その運営主体は量販店、地元JA、任意の生産者グループ等のいずれかですが、いずれにおいても生産者の参加・協力が不可欠です。
  例えば、量販店U社では、各店舗で地元JA、地元市場から仕入れた地場産の野菜を販売しており、近隣農家による直接販売コーナーの設置、個人名の表示、JAフェア(農家、JAによる消費者に対する直接PR・販売活動)の開催等を実施しています。
B 学校給食
    学校給食において地場農産物を使用する地産地消の活動は増加傾向にあり、また、今後さらに取扱い量を増やす意欲が高まっています。
  例えば、埼玉県の学校給食会では県内産の米、麦、大豆、野菜、果樹、約40品目を取扱い、県内の小・中学校に提供するとともに、地場農産物についての学校用教材や保護者向けのパンフレットを作成し、普及活動も実施しています。
C 福祉施設
    福祉施設における活動としては、病院や老人ホーム等での食事に地場農産物を利用している例がみられます。
  例えば、山口県のJA厚生連・N病院は病院食に地場農産物を使った料理を出している。食材は、地元JA、県などの協力により、地元市場から入手しています。
D 観光
    観光における地産地消は、地域独自の食材や食文化を提供・紹介することで、観光地としての価値を高めるような活動が進められています。
  例えば、群馬県のO温泉では、地元の農業後継者グループと旅館組合が協力して、宿泊者を対象とした地場農産物の直売会、農業体験用農園の整備と収穫体験等を実施するとともに、旅館独自の取組として地場農産物を食材として積極的に活用しています。
E 外食・中食
    外食事業や中食事業においても、農産物の安定供給の確保や、消費者ニーズに応える観点から、地場農産物を使用した活動が進められています。
  例えば、外食事業者のR社は、新鮮で高品質な野菜を安定的に調達するため、キャベツを全量国産とし、全国12産地で年間5,000トンを契約栽培するとともに、使用するキャベツの産地をホームページで紹介しています。
F 加工関係
    加工関係においても、地域の独自性にこだわった、地場農産物を使用した様々な活動が進められています。
  例えば、JAさが東部女性部の加工グループは、地元の特産品を使った加工品アスパラさしみこんにゃくとトマトさしみこんにゃくを開発し販売しています。
G 情報活動
    都道府県や市町村などの行政機関が中心となって、地場農産物をさらに普及させるための情報提供、広報活動等が進められています。
  具体的には、行政機関により、地産地消に関するシンポジウムや消費者団体等との意見交換会の開催、PRパンフレットを作成・配布、キャッチフレーズ・マスコットキャラクターの制定等の活動が実施されています。
  また、食育活動の一環として地産地消に取り組む例もあります。
  福井県小浜市では、幼児向けの料理教室「キッズ・キッチン」を実施しています。この取組は、地場産の野菜や旬をクイズなどで理解させ、子ども達だけで地場産の食材を利用した料理を作らせるものです。子ども達の地場産の食材への興味が高まり、そのような食材を提供してくれる地元の農業の大切さを理解します。
  家に帰って家族友達に地場産食材のすばらしさを広める役割を担ってくれるなど、子どもをターゲットにした活動です。
H 交流活動
    交流活動は、行政が主体となって展開される例が多く見られ、地場農産物をキーワードとした活動が展開されています。
  具体的には、行政機関が生産者と実需者との情報交換会や、生産者と消費者との情報交換会・試食会、伝統的な食材加工や調理の講習会等を実施している例が多く見られます。
I その他の多様な活動
    その他の取組としては、例えば、市民農園やオーナー制度あるいは学童の体験学習などのように上記@からHの各種の活動の複合的な形態であったり、又は一部重なるものもあります。
   
3. 地産地消の今後の推進方策
    地産地消に関する現状と諸般の課題を踏まえますと、今後、行政として推進すべき方向は以下のとおりと考えられます。
(1) 地産地消の運動としての推進
    現状では消費者と生産者の相互理解が必ずしも十分でないことから、生活スタイルや食生活が大きく変化したことを踏まえて消費者と生産者が相互に理解を深め、信頼関係が構築できるようコミュニケーションを強化していく必要があります。
  また、生産者は地元の消費者に支持されるものを作ることが必要であり、消費を増やすという点では、消費者に対する農業、農産物(食べ方、旬、栄養・機能性等)についての普及啓発等一層の地産地消の普及啓発を進めていく必要があります。
  とりわけ、食に関する知識や健全な食生活への関心が高まっている中で、本年7月に「食育基本法」が施行されたことを踏まえ、食育の取組と連携して地産地消の推進を図る必要があります。
  また、地産地消を幅広く推進する観点から、地域における地産地消の実践的な計画の策定の促進を引き続き進める必要があり、本年度中に全国の600地域で地産地消推進計画の策定を目標として推進します。
  一方、地産地消の取組は直ちに効果が発生するものではなく、「続けること」が大切であり、地場農産物をはじめとする国産農産物を選んでもらえるよう、根気よく、運動として継続的に進める必要があります。また、わかりやすいモデルケースを作ることも重要です。
  さらに、自給自足的な地産地消だけではなく、価値観が多様化する現在にふさわしい形で地産地消を広げていくことが必要であり、地産地消を幅広く、弾力的に捉えて推進する必要があります。
(2) 情報・ノウハウの提供(優良事例の収集・提供等)
    地産地消の事例を整理してみると、いろいろなかたちでどのような展開があり得るのか、どのような方向性があるのか、地域が取り組む際に非常にヒントになるので、優良事例の収集・提供をさらに進める必要があります。
(3) 関連施設等環境整備の支援
    直売施設や交流施設等の地産地消に関連する施設の整備などの支援が必要であり、また、学校給食での地場農産物の利用を進めるためには、不揃いな規格の野菜でも対応可能な調理設備や国産小麦など新たな食材に対応するための機械施設の導入も有効です。
(4) 生産と消費のマッチングを図るための情報交換の場づくり等
    新しい顧客の掘り起こしということが大きな観点として必要であり、従来的な経済システムの中にがっちり組み込むのとはまた別な考え方も必要です。
  また、ニーズの合致する生産者と消費者・実需者が結び付き合う関係づくりの中に地産地消があると考えられます。さらに、個人や事業者が単独で地産地消の取組を行うことは簡単ではなく、特に地場農産物を利用する側からは安定した供給が課題であり、需要と供給のギャップを埋めていくことに留意する必要があります。
  このため、ITを利用したマッチングや関係者のネットワークづくりなど生産者と消費者・実需者のニーズを合致させる機会として「情報交換の場づくり」や「顔が見え、話ができる関係づくり」が重要です。
(5) 人材育成(リーダーやコーディネーターの育成・確保)
    地産地消の推進には、その中心となる使命感を持ったリーダーやコーディネーターの育成が必要であり、また、地産地消を担う幅広い人材・後継者の育成が必要です。
(6) 学校給食における地産地消の推進
    食に関する知識や健全な食生活への関心が高まる中で、「食育基本法」が施行されており、こうした状況を踏まえ、地産地消を進めていく上で、また、地域の食文化の保持や味覚の発達等の観点からも食育の取組との連携が重要であり、文部科学省や栄養士会等の学校給食関係者と連携して、学校給食の中で地産地消を推進する方策を検討する必要があります。
  また、地域における学校給食等での地場農産物の利用促進は、関係する組織、団体等が一緒の話し合いのテーブルに着くことによって問題点が明らかになり、解決策が見えてきます。
  地産地消は、生産者と消費者・実需者のコミュニケーションを伴った活動であり、意志疎通を十分図る必要があることから、関係者が一体となって推進する必要があります。
(7) 観光業等における地産地消の推進
    旅館などの観光業等においても国産農産物の利用を含む地産地消を推進するため、関係業界や関係省庁と協議しつつ推進方策を検討する必要があります。
   
4. むすび
    この「中間とりまとめ」は、地産地消推進検討会での今後の地産地消の推進方向の議論を現時点でとりまとめたものであり、国における地産地消関連施策の企画立案に速やかに反映されることが望まれます。
  また、学校給食における地産地消の推進や旅館など観光関係者による地場農産物をはじめとする国産農産物の利用の推進については、今後とも引き続き、さらに検討を深めていく必要があります。
  地産地消の取組は、各地域の創意工夫を活かして多種多様に展開されており、この推進のためには、地域で実施されている優良事例をさらに収集・分析するとともに、引き続き、より効果的な推進方策の検討を行っていく必要があると思われます。
  我が国においては、大量生産・遠距離輸送技術の発展に伴って大量消費社会へと移行し、効率かつ安定的な農産物流通システムが構築されました。その一方、生産者と消費者の関係は疎遠となりました。また、2000年以降食品をめぐる事件や事故が頻発し、消費者の食品や農産物への不信と不安が高まりました。そしてその裏返しとして、消費者の食品と農産物への安全・安心志向が強まっています。
  このような状況の中で、直接の交流・対話を通じて「食」と「農」の原点を見つめ直す地産地消が全国各地で展開されています。この流れが一時のブームで終わることのないよう、逆に今の状況を糸口にして、消費者や生産者に対して地産地消のニーズを創り出していくことが必要と考えられます。
  こうした地産地消の運動を国民的な大きなうねりとし、生産者が消費者や実需者のニーズを的確に把握してそれに沿った生産を行うようになるとともに、消費者が農業や農産物への理解と関心を高め、地場農産物をはじめとする国産農産物を選択する機会が増えることにより、食料自給率の向上に寄与することを目指します。